フキノトウが告げる軽井沢の春 採って味わう旬の味
軽井沢に春の訪れを告げるのは、実は桜でもなく新緑でもなく、フキノトウだ。3月中旬になると冬の間に地面に枯れ落ちた茶色い葉の隙間から、見慣れない黄緑色が控えめに春の光を放つ。「かわいい」と思うと同時に、「美味しそう」とも思うこちらの意図を察してか、フキノトウもそう簡単には見つけさせてはくれない。春のかくれんぼが今年もスタート。さて、”鬼”はどれくらい彼らを見つけることができるだろうか。
フキノトウは”かくれんぼ”の名人
フキノトウはポピュラーな山菜なので、見かけたことがある人も多いだろう。ただ多くの場合、それは茎を伸ばし、花が咲いてしまった状態なのではないだろうか。そうなると個人的には、「あぁ咲いちゃった…」という状態。花が咲いてしまっても食べれなくはないが、大きく育ったものは苦みが強くなるので、香りとともにほどよく楽しみたい場合は蕾、あるいは花が咲いていない状態で食した方が良い。
ということで私のフキノトウ探しはいわゆる“蕾探し”となる。ただ、蕾のフキノトウはまだ落葉に隠れていて、そう簡単には姿を現してくれない。小さすぎて、かぶさった落ち葉を押しのける力がないのだ。
ときどき落ち葉の隙間から顔を出しているフキノトウがいる。無色の冬の世界にまさにそこだけ“異色”な黄緑色が主張するのだから、どんなに小さくたって目立つ、というか、光る。「みーつけた!」と思わず鬼ごっこの鬼になったような気持ちでフキノトウを摘むと、心なしかフキノトウも観念した様子。
今年は昨年より“目”が慣れたのか、自分でもなかなかの収穫っぷり!…と思っていたが、東京に帰ってから再び2週間後に軽井沢に戻ってくると、庭には茎を伸ばしたフキノトウが「残念でした~」と言わんばかりにニョキニョキ。「こんなに隠れてたの?」と、まるでかくれんぼに負けた鬼の心境。でも、人間数人が山菜を楽しんで食べられる量なんて微々たる程度。今年も心ゆくまで堪能できたのだから、採れた分でよし(と言い聞かせるも、負けた気分が抜けないのはなぜか)。
フキノトウの料理といえば天ぷらが代表的だろう。油で揚げた衣が、フキノトウ独特の苦みが見事にマッチングする。そしてもう一つおすすめしたいのがフキノトウ味噌だ。油で炒め、味噌とみりん、砂糖で味付けする昔ながらの保存食。これがまた白いごはんとよく合うのだ。
甘い味噌の中にフキノトウの苦みがアクセントとなり、頬張った瞬間にほわ~っと口いっぱいに春の香りが広がる。天ぷらと違い、使う調味料の量でフキノトウの味の出し方を調整できるので、苦みをキリっと味わいたい人は味噌や砂糖を少なめに、ほのかに味わいたいという場合は調味料を多めに使うなどすれば、自分好みのフキノトウ味噌を作ることができる。いずれにせよ、調味料を加える前に油で炒めることで苦みはだいぶ抑えられるので、初めての人でも食べやすいし、何より作りやすい。
採れたて筍の絶品味噌汁
フキノトウの合図で春の到来に気付いたら、次は筍。さすがに筍は竹林のない自宅には生えないので、今度は我らの‟胃袋”「軽井沢発地市庭(ほっちいちば)」へと向かう。
ここでのお目当てはもっぱら旬の野菜。春夏秋冬で店頭に並ぶ野菜が異なるが、名物の高原野菜などが登場し始めるこれからが一年で最も活況を迎える季節となる。
その“前座”となるのが山菜だ。フキノトウ、タラの芽、コシアブラ、ワラビ、コゴミ、ウド…ポピュラーな山菜が採れたての状態で並ぶ。タラの芽などの人気の山菜は数も少ないためか、午前中で姿を消していることもしばしば。
パックで小分けに売られている山菜の下に、地元で採れた筍もゴロゴロと並ぶ。とうもろこしもそうだが、筍は採れた瞬間から鮮度と味が落ちてゆくので、美味しく食べるには採ってから茹でるまでの時間をいかに短くするかが勝負なのだそう。ということで、午前中その日に採れたものを買い、速効自宅に戻って茹で始める。筍をゲットした日は、その後のやることが多いので、必然的に「筍の日」となる。
筍の皮を2、3枚剥ぎ、穂先を落として1時間ほど茹でる。筍のうま味を逃がさないためにも、茹でる際に皮はついていた方が良いのだそう。筍の横にご親切に糠が置いてあったので併せて購入し、唐辛子とともに茹でるのに使ったが、これは採ってから時間が経ち、えぐみが出てしまった筍からあく抜きをするためのもので、採ったばかりの新鮮な筍には不要だという話も聞いたことがある。ここで買えば産地採れたてなので、次回は糠なしでどう味が変化するのかやってみたいと思う。色々試して自分のスタイルを作りたい。
茹で上がった筍は、定番の筍ごはんとみそ汁に。忙しい生活では便利な筍の水煮を使ってしまうけれど、ここではその選択肢はない(というか水煮がない!)。でも、やはり食材そのままを調理すると、全然味も香りも違う。筍ごはんもさることながら、とにかく筍の味噌汁が美味しい。筍の出汁が溶け込んだ甘い味噌汁は他の味噌汁や出汁では味わえない逸品。水煮ではこうはならないな~と筍をショリショリ食べながら、いつもはしない味噌汁のおかわりをしそうになる。
自宅の庭に生えていたり、身近な山野で収穫された山菜を食べることは、ただ「食べる」というのとちょっと違う。採る~調理~食べるまでの一連の過程を通して、野に生えている植物のエネルギーをカラダに取り込む感じ。きっと美味しさだけでなく、動物的な感覚で冬が明けたことの喜びを感じているのだろう。これもセカンドハウスで知った「豊かな暮らし」の一つだ。
フキノトウがひと段落したら、今度はフキの季節。こちらの期待を察するかのように、庭ではフキが控えめに小さな葉を広げ始めている。