かつてのだんご屋がライ麦パン屋に 軽井沢・追分宿の「一歩ベーカリー」

 人気の軽井沢から少し離れた場所にある「追分宿」(おいわけじゅく)。江戸時代にあった中山道の宿場町の1つで、ゆったりとした風情が漂う街並みは数多くの文豪からも愛されていた。そんな追分宿に古民家を改装した1軒のパン屋がある。「一歩ベーカリー」。こんな場所にパン屋があるだけでも目を引くが、日本ではあまりなじみのない「ライ麦パン」にこだわりをもった珍しいお店。ライ麦パン好きとしては、ここで過ごす週末のランチタイムもまた、軽井沢でしか得られない至福のひとときだ。

軽井沢の追分宿にある「一歩ベーカリー」

イメージを覆す、甘味のあるライ麦パン

 追分宿は不思議な街だ。昔ながらの街道の、うねうねとしたい道の付き方がそう感じさせるのか、道がきれいに舗装されていても、クルマが往来していても、町に漂う、どこかしっとりとした静けさにタイムスリップしたような気分になる。いわゆる「旧軽」やアウトレットモールがあるエリアなど、人気の観光エリアとは全く違う。むしろ“軽井沢周辺”なのにこれで良いのかな、などと余計な心配もしたりする。

かつて「追分だんご」を取り扱っていた和菓子屋を改築したという店舗 。こうしてみるとなんとなく茶屋っぽい佇まい

 いや、もしかするといまも純粋な宿場町であって、観光地ではないのかもしれない。「宿場町ってなんかかっこいい」などと、際立ったキーワードを見つけるとすぐ観光資源として見るよそ者の浅はかさ。傍らの、年季の入った古民家や軒先の樹木に笑われた気分になる。

かつて「追分だんご」を取り扱っていた和菓子屋を改築したという店舗

 ここ追分宿を訪れる目的は「一歩ベーカリー」に行くこと。お目当てはこの店の看板商品、ライ麦パンだ。

 もともとパンが大好きで、一時はいわゆる「高級食パン」ブームにハマり、毎朝厚切りトーストにバターやジャムを載せて頬張る生活を送ったこともあった。が、さすがに糖質を摂り過ぎていると反省し、パンの中でも食後血糖が上がりにくいとされるライ麦パンに切り替えることに…。

 ライ麦パンと名乗るパンにも、ライ麦と小麦粉の含有比率がさまざまあるが、食べるなら徹底的なライ麦パンを!と、いつも選ぶのはライ麦100%のタイプ。黒くてまるでレンガのような見た目。ぼそぼそとした酸っぱいパンを我慢して食べる、というのがライ麦パンのイメージだったが、この一歩ベーカリーのライ麦パンを食べて、その印象が大きく変わった。

ライ麦から育て、自家製酵母で作っているこだわりのライ麦パン

 低温で長時間蒸し焼きにしたライ麦100%のパンは軽くトーストすると生地がほくほくと蘇り、もっちりとした食感が楽しめる。これまでのライ麦パンに感じていた特有の酸味が少なく、噛めば噛むほど口の中に甘味が広がる。もちろんクリームチーズも合うが、少量のバター、あるいは美味しいオリーブオイルをつけてパンそのものの風味を楽しみたくなる。

 話を聞くと、一歩のライ麦パンは店主の青野剛三さんが、若い頃ドイツで食べたパンの味が忘れられず「自分が好きなパンを食べたい」という想いから生まれた。幸い東信州の気候や風土はライ麦パンにぴったりだったそうで、小諸にある四反歩の畑でライ麦を育て、試行錯誤を繰り返すなかで自分が美味しいと思えるパンにたどり着いたという。

 使う小麦もすべて国産。てんさい糖、米油など使う素材にもこだわり、しかも出来得る限り地産地消。無添加で保存色・着色料は一切使用しない。ライ麦パンは含有100%や80%の他に、カンパーニュなどもある。ライ麦を使わない「田舎食パン」や「雑穀食パン」、さらにはあんぱんなど、取り扱うパンは12種類にのぼる。

地元の恵み“もりもり”ランチプレート

 自宅用のライ麦パンを購入するのに加え、ここではもう一つのお目当てがある。一歩で焼いたパンを使ったランチプレートだ。種類は大抵2種類で、パンのバリエーションが楽しめるパンの盛り合わせと、チーズトースト。プラス500円でプレートセットにすると、サラダに蒸し鶏やキッシュなどのデリ、さらに季節のスープや食後のコーヒーもついてくる。

一歩のパンを色々楽しめるパンの盛り合わせランチセット

 訪れるたびにスープやチーズトーストの具材が変わり、そのバリエーションが楽しみで、一歩にパンを買いに行くときは決まってランチタイムを狙っていくようになった。

人気のチーズトースト。今回はかぼちゃと一歩ハーブ園で収穫したフェンネル。前回は地元で採れたネギを使った「ネギ味噌」だった。これがチーズと絶妙なマッチング!

ティータイムの人気メニュー、フレンチトースト焼きりんごトッピング。予約をすればランチでも対応してくれるが、予約なしで運よくありつけることも

ランチセットにはスープとコーヒーも。今回は地元で獲れたネギのスープ。ネギ好きにはたまらない

 店内にはご主人の趣味なのか、ビートルズの曲が流れる。一方でドアや窓を開け放している店内には、用水路を流れるせせらぎの音や風が木々の葉を揺らす音も聞こえる(ときどきクルマのエンジン音も…)。

 ランチプレートセットでオーダーすると1500円前後と少しお高めの印象だが、パンはもちろん、気前よく盛られた野菜やデリ、そしてその日に手に入った野菜によって変わるスープも含めて全てが美味しく、食べ終えると体も心も満たされる。

 ゆったりとした静かな空間で丁寧な仕事に感じ入りながら、昔の人もここで、一呼吸する気持ちでだんごを食べていたのかな、と想像したりする。

 時代が変わり、だんごはパンになったけれど、追分宿に流れる空気は変わることなく訪れる人を癒してくれる。追分宿が賑やかな観光地でなく、宿場町としてあり続ける理由が分かった気がした。

テラス席もあるイートインスペース

一歩ベーカリー

所在地: 長野県北佐久郡軽井沢町追分578

電話番号:0267-41-6511

営業時間:10:00〜16:00頃(冬営業)(drink10:00〜、lunch11:00〜14:00)

定休日:火・水・木

HP:https://www.ippo-bakery.com/

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