軽井沢から渋峠へ 春ライド解禁! 「雪の回廊」絶景ヒルクライム
サイクリストにとって春の訪れとともに気になるのが、長野県と群馬県の県境にある国道最高峰地点「渋峠」(2,172m)。草津から峠までの「志賀草津道路」は降雪量の多さから冬季中は通行止めとなるが、4月下旬の解除後にはその積雪が「雪の回廊」となって訪れる者を出迎えてくれる。軽井沢から渋峠までは片道約60kmほど。ヒルクライムの起点となる草津町に辿り着くまでもアップダウンを繰り返すなかなかしんどい道のりなのだが、軽井沢に拠点を置くサイクリストとしては、行かなければならないような義務感すら感じてしまうのだ。
前菜(?)でおなかいっぱいの「日本風景街道」
今年の志賀草津道路の開通日は4月22日。それから遅れること約1週間後、ゴールデンウィーク(GW)の最中に訪れた。軽井沢を玄関口にして、浅間高原を縦断し、草津温泉を抜けて志賀高原へと続く「浅間・白根・志賀さわやか街道」をひたすら走る。「日本風景街道」の一つで、その名の通り雄大な山並みや広々としたキャベツ畑等様々な景色が楽しめるコースだが、自転車的にいうと、スタート直後いきなり峰の茶屋まで高低差400mのプチヒルクライムから始まるなかなかなコース。上ったと思ったら、今度は「どこまで下るんだろう…」と不安になるくらい坂を下り続ける。
その後も細かいアップダウンが繰り返され、ジワジワと脚が削られていく。これが「前菜か~」とメインの渋峠ヒルクライムを思いを馳せる。「誰か峰の茶屋から渋峠まで水平移動できる“橋”を渡してくれないかなー」と思いながら、昨年も同じことを考えていたことを思い出した。
GWを迎えた道は、草津に近づくほど多くのクルマやオートバイが渋滞を為していた。そのすきを見て、少し優越感に浸りながら「お先に~」という気持ちで渋滞する車の横を通り抜ける。人が集まるところでの機動力は、やはり自転車が最強だ。
軽井沢を出発して約2時間、渋峠のお膝元の町、草津に到着。ちょうどスタート地点にあるコンビニエンスストアでエネルギーを補給。向かいには老舗の温泉饅頭屋「亀屋」があるが、サイクリストにとって重要なのは名物より糖質。コンビニでおにぎりやアイス等、自分の体内にある“タンク(胃)”に食べたいものを詰め込む。実はこの補給もライドの楽しみの一つだったりもする。
景色の変化がダイナミックな渋峠
いよいよ渋峠にアタック開始。麓付近は観光客で賑わっていたが、高度を上げるにつれ、次第にオートバイと車、それに負けない数の自転車(というほどでもないが、そう言いたいくらい多い)のみの世界に。皆、目的は「雪の回廊」、そして「日本の国道最高地点」だ。
草津白根山は活火山で、同山周辺には有毒な火山ガスの噴気地帯が点在している。通行の可否は草津白根山の噴火警戒レベルに左右されるが、昨季に続き「レベル1」で今季も終日通行可能となっている。が、場所によっては鼻を突くようにガス濃度が濃い箇所もあり、ところどころ看板で注意を促している。
荒々しい自然は同時に絶景も見せてくれる。これまでにも様々な峠、山を上ってきたが、やはりどこも火山は一味違う。上へと上るにつれて様々な山容を見せ、そこに来た者でないと出会えない景色を見せてくれる。なかでもここ渋峠の景色は変化はダイナミックで”おおらか”だ。
平均勾配5%程度というゆるやかさと、常に開けた視界に迫りくる雄大な山の景色。ここが火山であることを感じさせる匂いや、上った先に現れる、生き物を寄せ付けない荒涼とした雰囲気の草津白根山。次々と変わる表情に24kmの登坂も飽きることはない。
海外を走るサイクリストが、「ここは日本のトゥールマレー(フランスのピレネーにあるヒルクライムで有名な峠)」と例えていたが、確かにここには日本離れしたスケールを感じさせる。自力で、自然に最も近づける自転車はその醍醐味を感じるにはうってつけの乗り物。多くのサイクリストが惹きつけられる理由はそこにあるのだろう。
「雪の回廊」そして「国道最高地点」へ
上り進めると、徐々に雪の回廊ゾーンに突入。地元紙の「上毛新聞」によると今年は降雪の回数が多く、雪の量は昨年の2倍ほどだそう。雪壁は高いところで7mほどに達した場所もあるという。
連日の温かさでだいぶ雪も解け、壁も低くなっていたが、それでも雪の回廊ゾーンは圧巻。当日も人気の撮影スポットは多くの人で賑わっていた。
自分も少し脚を止めてパチリ。撮影スポットであることが暗黙の了解になっているようで、行き交う人がそれぞれ注意を払って速度を落とすが、撮影に夢中になって通行の妨げにならないよう気を付けて。
帰路は湯田中まで一気にダウンヒル
ようやく日本国道最高地点に到着。今年も無事ここに来れたことに感謝!といいたいところだが、クルマやオートバイで駐車場は溢れ返り…、碑周辺には記念撮影をするために順番待ちをする人たちでごった返し…。これもこの時期特有の風物詩ということで、我々もさくっと撮影して次の人へ場を譲ることに。
渋峠から志賀高原方面に300mほど行ったところにスキー場があり、GW中に今シーズンの滑り納めをしに来ている人たちで賑わっていた。その近くにある「渋峠ホテル」で休憩。スキー道具や大きな暖炉など、「スキー宿」としての長い歴史を感じさせる内装だが、外はロードバイクだらけ。中で休んでいる人もサイクリストの姿が目立っていた。
休憩を終えたら一路帰途へ。前回、軽井沢まで元来た道を辿って復路としたときには、再びのアップダウンで軽井沢に着くまでに瀕死の状態になりかけたので、今回は文明の利器「輪行袋」を使ってワープすることに(ロードバイクは車輪を外して袋に収納すれば公共交通機関に載せることができる)。よって上りはこれでおしまい! 長野電鉄長野線の湯田中駅目掛けて25kmの坂を一気に下る。
上りのストレスを一気に解放したくなるが、草津側よりも斜度がきつく、距離も長いので、これはこれで集中力が切れないよう細心の注意が必要だ。加えて、ずっと下りで風に当たるだけになるので、ウィンドブレーカーに加えてインナーダウンを持参するのがおすすめ。この日は頂上にいてもさほど寒さを感じなかったが、やはり下山中はダウンを着こんでおいてよかった…と思うくらい体が冷えた。
本日のゴール、湯田中駅に到着。「温泉郷」といっても草津のような観光地的な賑わいはないが、駅近くに「楓の湯」という町営の公衆浴場があるのはさすが!と感じさせる。
電車を待つ間に余裕があれば汗を流すのも良いが、それほど時間がなかったり、入浴まではいいかな…という人には足湯がおすすめ。これだけでも十分に足の疲労がとれる。寒い日の下山時には、サイクリストにとってきっとここは天国♨のような場所になるのだろう。
気持ち良過ぎて、つい電車の発車時間を忘れそうになるので、予め輪行支度を整えた上で浸かるのがおすすめ。
上っている間はキツイけど、上り終えた達成感で記憶が塗り替えられてしまうヒルクライム。「これは春の恒例行事になるのかな…」と早くも来年を思って、苦笑いを浮かべるのだった。