‟異国民藝”が調和する空間 旧軽井沢「酢重ギャラリー ダークアイズ」

 趣味の一つである「民藝」が、軽井沢でこんなに面白い扉を開けるとは思わなかった。旧軽井沢エリアにある「酢重ギャラリー ダークアイズ」。一見よくある民藝もののセレクトショップだが、この類の店にはあまり見ない‟ハイカラ感”がある。こじんまりとした空間にはどっしりとした民藝ものの他に、現代アート、硝子製品、さらにはインドの家具やアフリカの布、北欧のヴィンテージ家具等異国の品物も並ぶが、それらのミックス感が心地良い。こんなに個性の強いものたちが集まって、なぜこんなにもバランスよく調和しているのか。その理由は「Dark Eyes」という店名に関係しているらしい。

「旧軽銀座」の入口付近にある「酢重ギャラリーダークアイズ」

‟民藝の神様”に導かれた縁

 ダークアイズは、「THE CITY BAKERY」や「酢重正之」等、東京エリアにも飲食店を数多く出店している株式会社フォンスが手掛けるギャラリーショップ。代表を務める小山正氏が軽井沢出身だそうで、いわばここは同グループの本拠地となる。ダークアイズの周辺には「酢重正之」「川上庵」、そしてベーカリー&レストランの「沢村」等、同グループが経営する店舗が集まっている。

ギャラリーの向かいには同グループのダイニング「酢重正之」と蕎麦屋「川上庵」

 ただ、そんな関係性を知ったのはのちの話で、自分がダークアイズに足を踏み入れたきっかけは一つのカップ&ソーサ―の縁だった。

 個人的な話で恐縮だが、先述したように「民藝」好き(といっても好きなデザインがたまたま「民藝」と呼ばれるカテゴリーに多いだけだが)で、さらに自転車が好きな私は、たまに地方の窯元を巡る自転車旅に出かける。島根県にある「湯町窯」という民窯に素敵なカップ&ソーサ―があるのを知り、自転車旅がてら窯元へ向かったのだが、到着した直売所ではそのセットは売り切れていた。あきらめきれず松江市内をさまよい、湯町窯の作品を扱う店舗を回ったが見つけることはできず、失意の中帰京した。

 そんな落胆したことも忘れていたある日、旧軽でダークアイズの前を通ると目に黄色い焼き物が映った。「あれ?あの釉薬の色は…」店内に入ってみると、中央に置かれたメインテーブルの上に島根で目にした湯町窯の作品が所狭しと並んでいた。

店のメインテーブルに所狭しと並んだ湯町窯の作品

 「もしや…」と胸が高鳴った。目を凝らしてくまなくテーブルの上を眺めたが、やはりここにもお目当てのものはなかった。再び落胆。しかし、ダメ元で店長さんに探しているデザインを伝えてみたところ、そのイメージが通じ、なんと湯町窯に直接問い合わせてくれることに。翌日、次回入荷時に入れていただけるという約束をとりつけたことを報告してくれた。地元島根で手に入れられなかったものを、まさか軽井沢で手に入れられるとは思わなかった。

ずっと探していた島根県「湯町窯」のカップ&ソーサー。黄色い釉薬とぽってりとしたこのフォルムがたまらない

 のちに詳しい人から話を聞いたところ、ダークアイズは全国的に引っ張りだこな湯町窯の作品を数多く仕入れていることで知られている店だという。そんな話を聞いて、「民藝の神様」が落胆していた自分をここに導いてくれたのかもしれない、と縁に感謝。

湯町窯のとっくりとぐい飲み
スリップウェアがユニークな湯町窯のカップ&ソーサ―

 ”湯町カップ”を引き取りに二度目の来店、興奮していた初回とは違って店内に置かれている様々な品物が改めて目に入ってきた。砥部焼や波佐見焼、益子焼等ポピュラーな焼き物や、珍しい大分の古小鹿田焼、三重の伊賀焼、そして地元長野県の作家や全国的にも著名な若手作家の作品等、多種多様な顔ぶれが並んでいた。

十場天伸(じゅうば・てんしん)さんをはじめとする新進気鋭の若手作家の作品も取り扱う
海外の作家の作品も取り扱う。これはイギリスの作家による水牛の角を使ったティーカトラリー

 さらに陶芸以外にガラス製品や現代アートの作品も展示されていたりと、ノージャンルなラインナップ。しかし“バラバラ感”はまったくなく、むしろ個性派揃いのアート作品がそれぞれマイペースで、心地良い調和を作り出している。

土の臭いが漂う空間に、繊細なガラス製品が水滴のような瑞々しさを添える

現代アートもさりげなく

「ダークアイズ」=日本人の目

 ユニークなのはそれだけではない。それらの作品展示に使われている棚やテーブルが、さりげなく異国のものなのだ。日本の桐製の階段箪笥の横に明らかに日本製ではない作りのものがあって、聞くとそれらはインド製の家具。まるで年老いた日本人とインド人が肩を並べて座っているようにも見える。

違和感なく共存するメキシコの絵皿や沖縄の張り子等。鮮やかな色彩を店内のダークな壁がいっそう引き立てる

 2階のギャラリーへと上がる階段にはアフリカ製と思しき大きなラグが大胆に垂れ下がり、そしてギャラリーには北欧ヴィンテージの椅子やテーブルが凛とした佇まいで置かれていた。静かな空間の中に浮かび上がる古小鹿田の焼き物の花器やブルキナファソの面。作品が生まれた国が違うのに、まるで呼応し合うかのような調和を見せていた。

2階へ上がる階段部分にも絵画やどこかの国のラグが大胆に飾られている
2階のギャラリーには北欧のヴィンテージ家具をベースに大分県の古小鹿田や現代アートが展示されている

 自分が知る限りでは、国内の民藝と海外の民藝、それぞれを専門的に取り扱う店はあっても、これほど双方の個性が濃厚で、しかも魅力を引き出し合う形で上手く調和できている店はめずらしいように思う。もはや和洋や民藝等といったくくりではなく、ただただ洗練されたアート空間のようだ。

 このギャラリーでは、ときに現代アートや可愛らしいモチーフの絵画の企画展も開催するが、どんな組み合わせでも受け止める懐の深さがある。なぜこれほど異国の民藝やアートが日本のものと調和するのかと、ここを訪れるたびに考えていた。

ジャンルを超えて調和する作品
デザインが異なっても、交じり合うポイントがどこかにある

 「店名の‟ダークアイ”というのは‟黒い目”、すなわち日本人としての目でものを選び取るという意味が込められています」

 この話を聞いて、なるほど、と思った。店長の町田拓朗さんによると、この店舗を立ち上げたのは同社の代表である小山正氏。持ち前のアートセンスはもちろん、若い頃から海外に出て国内外の文化に触れてきた経験から、日本人として世界のアートを選び取る目と、世界と調和する日本の美を選び取る感性が磨かれたのではないか、という。

 「ダークアイズ=日本人の目で集めたもの」、つまり小山氏の感性が選び取った作品が並んでいるというわけだ。言い方は正確ではないかもしれないが、ダークアイズに置かれている異国民藝がすんなりと我々の美的感覚に入ってくるのは、たしかにどこか味噌や醤油の香のような‟肌なじみ感”があるせいかもしれない。

 このダークアイズを営んでいるのが飲食業を手掛ける企業の代表だと知ったとき、正直いって意外な印象を受けた。だが、同社が手掛ける「酢重正之」や「川上庵」は扱うジャンルこそ和食でも、それにとどまらない洗練されたセンスが細部に光る。それはダークアイズにも似た部分かもしれない。

 創業20年ほど。東京でも店舗を拡大している勢いのある企業だが、彼らの本拠地である軽井沢の小さな店舗で、その核心部を垣間見た気がした。今度、東京で同グループの店舗を訪れた時、印象はどう変わるだろうか。

Suju Gallery Dark Eyes – 酢重ギャラリー ダークアイズ 

所在地:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢 1-7 曙ビル 1F (旧軽ロー タリー)
営業時間:10:00~20:00
定休日:無休
電話:0267-41-2828

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